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メルヘンチックな響きがかわいいIT用語をまじめに20個紹介!!

ITの領域は、その厳密で論理的な性質とは裏腹に、時として詩的、あるいは幻想的な響きを持つ用語で彩られることがある。ここでは、その呼称や概念が独特の柔らかな世界観を想起させる「ゆめかわいい」と形容しうる用語を10個選出した。しかし、その愛らしい響きの裏には、いずれも重要な技術的背景が存在する。感傷に浸ることなく、その本質を冷静に分析していく。

公開: 2025年8月28日更新: 2025年9月6日

1. マシュマロ (Marshmallow)

単なる匿名メッセージサービスではない。その本質は、AI技術を用いたテキストフィルタリングにある。攻撃的な言葉や誹謗中傷を自動で検知し、投稿者以外には見えないように処理する。あるいは、オブラートに包んだような柔らかい表現に変換して受信者に届ける。これにより、発信の自由を確保しつつ、受信者を心理的苦痛から保護するという、一種の非対称なコミュニケーションを実現している。

2. キャンディ (Candy)

これは、Android 5.0 Lollipopの公式なバージョン名ではなく、開発段階で用いられた内部コードネームだ。Googleは伝統的に、Androidのバージョンアップごとにアルファベット順でお菓子の名前をコードネームとしてきた。Candyは "L" の次を見据えた候補の一つだったが、最終的にLollipopが採用された。表舞台には立たなかった、幻の名称とでも言うべき存在だ。

3. ハニーポット (Honeypot)

これは、セキュリティにおける「おとり捜査」の概念を具現化したシステムだ。意図的に脆弱性を残したサーバーやネットワークを公開し、攻撃者を誘い込む。攻撃者がこの偽の環境(ハニーポット)に侵入し、様々な攻撃を試みる様子を詳細に記録・分析することで、未知の攻撃手法やマルウェアの挙動を把握する。甘い蜜で獲物をおびき寄せるが、その目的は捕食ではなく、観察と学習にある。

4. クッキー (Cookie)

HTTP通信がステートレス(状態を保持しない)であるという性質を補うための仕組みだ。ウェブサーバーからの指示で、ブラウザが特定の情報をテキストファイルとして保存する。これにより、サーバーは異なるアクセスの間でも同一ユーザーを識別できる。ログイン状態の維持や、ECサイトのショッピングカートの中身の記憶などがその代表例だ。名前の由来は、UNIXのプログラミングにおける「マジッククッキー」という用語から来ているとされる。

5. シンデレラ時間

正式なIT用語ではなく、主にオンラインゲームやソーシャルサービスにおける慣例的な表現だ。多くのサービスでは、ログインボーナスやデイリークエスト、行動回数の制限などが、深夜0時をもってリセットされる。この日付が変わる瞬間の仕様を、12時の鐘で魔法が解けるシンデレラに例えたもの。ユーザーの継続的な利用を促すための仕組みと言える。

6. エンジェル (Angel)

エンジェル投資家を指す。これは、創業間もないスタートアップ企業に対し、個人の資産から資金を提供する投資家のことだ。銀行融資やベンチャーキャピタルからの投資が困難な、アイデアやプロトタイプの段階で支援を行う。単なる資金提供者ではなく、経営に関する助言や人脈の紹介なども行う場合が多い。事業の未来を信じ、リスクを取って翼を授ける存在だ。

7. ユニコーン (Unicorn)

ベンチャーキャピタル業界の用語で、「評価額が10億ドル以上」かつ「未上場」のスタートアップ企業を指す。2013年にこの言葉が提唱された当初、そのような企業は伝説上の一角獣(ユニコーン)のように、極めて稀な存在だったことから名付けられた。現在ではその数も増えたが、依然として成功したスタートアップの代名詞として使われる。

8. ペガサス (Pegasus)

特定の個人や組織を標的とする、極めて高度なスパイウェア。イスラエルのNSO Groupが開発したとされる。このマルウェアの特筆すべき点は、「ゼロクリック攻撃」が可能であること。つまり、ユーザーがリンクをクリックしたり、ファイルを開いたりといった操作を一切しなくても、メッセージを受信するだけでデバイスに感染させることができる。神話の天馬が密かに空を駆けるように、標的に気付かれず深部まで侵入する。

9. ラズベリーパイ (Raspberry Pi)

クレジットカードサイズの安価なシングルボードコンピュータ。元々は、教育現場でコンピュータサイエンスの基本を教えるために開発された。安価でありながら、OSを動作させ、プログラミングや電子工作の学習、IoTデバイスの試作、ホームサーバーの構築など、その用途は無限の可能性を秘めている。果物の名前は、AppleやApricotなど、コンピュータの歴史における命名の伝統を踏襲したものだ。

10. イースターエッグ (Easter Egg)

プログラムの本来の機能とは無関係に、開発者が意図的に隠し込んだメッセージや機能のこと。特定のコマンド入力や操作手順によって出現する。その起源は、1979年のAtari社のゲーム「Adventure」で、開発者がクレジットに自分の名前を載せてもらえなかったため、秘密の部屋に自分の名前を隠したのが最初とされる。開発者の遊び心や、ユーザーへのささやかな贈り物だ。

11. スプライト (Sprite)

2Dコンピュータグラフィックスにおける画像合成技術の一つ。背景画像とは独立して、キャラクターなどの小さな画像を画面上で動かすためのオブジェクトを指す。ハードウェアレベルでこの処理をサポートすることで、CPUに大きな負荷をかけることなく、滑らかな動きを実現した。ファミコンなどの8ビットゲーム機時代には、このスプライトの表示枚数や性能が、ゲームの表現力を左右する重要な要素だった。

12. デーモン (Daemon)

UNIX系OSにおいて、システムのバックグラウンドで常駐し、特定の機能を提供するプロセス。ユーザーが直接対話的に操作するのではなく、OSからの要求に応じて、あるいは定期的に決められた処理を実行する。Webサーバーのhttpdや、メール転送のsendmailなどがその代表例。システムの機能を陰で支える、目に見えない存在として、ギリシャ神話の精霊「ダイモーン」になぞらえられた。

13. ゴースト (Ghost)

複数の文脈で使われるが、共通するのは「実体がないのに痕跡が残っている」というイメージだ。古いCRTディスプレイの「焼き付き(ゴーストイメージ)」や、終了したはずなのにプロセスリストに残り続ける「ゴーストプロセス」などが該当する。また、ディスク全体を複製(クローニング)するソフトウェア「Norton Ghost」が有名であり、システムを丸ごとコピーする行為そのものを指すこともある。

14. ゾンビ (Zombie)

UNIX系OSにおける、異常な状態にあるプロセスの一種。子プロセスが処理を完了して終了したにもかかわらず、その終了ステータスを親プロセスがまだ受け取っていない状態を指す。プロセスとしてはすでに死んでいる(実体がない)が、プロセス管理テーブル上には情報が残り続けている。まさに「死んでいるのに死にきれない」状態であり、この名が付けられた。

15. ワーム (Worm)

自己増殖能力を持つマルウェアの一種。ウイルスが他のファイルに寄生して感染を広げるのに対し、ワームは独立したプログラムとして存在し、ネットワークの脆弱性を突いてからからコンピュータへと自律的に感染を拡大させる。その様が、地面を這い進む虫(Worm)に例えられた。大規模なネットワーク障害を引き起こす原因となり得る。

16. プロキシ (Proxy)

「代理」を意味する言葉で、内部ネットワークのコンピュータに代わって、インターネット上のサーバーと通信を中継するサーバーのこと。企業内LANなどからインターネットにアクセスする際に利用されることが多い。アクセス制御や、Webページの情報を一時保存(キャッシュ)して表示を高速化する、あるいは匿名性を確保するなど、多岐にわたる目的で利用されるセキュリティの基本要素だ。

17. アバター (Avatar)

サンスクリット語の「アヴァターラ(化身)」に由来する。神が地上に現れる際の仮の姿を意味する。ITの文脈では、サイバー空間やオンラインゲーム、メタバースなどにおいて、ユーザーの分身として機能するグラフィカルなキャラクターを指す。単なるアイコンではなく、ユーザーが自己を投影し、仮想世界で活動するための依り代となる存在だ。

18. ウィジェット (Widget)

GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を構成する、ボタンやスクロールバー、テキストボックスといった基本的な部品の総称。また、転じて、デスクトップやスマートフォンのホーム画面に配置し、天気予報やニュースなどの情報を簡易的に表示するミニアプリケーションのことも指す。"Window"と"Gadget"を組み合わせた造語とされる。

19. サンドボックス (Sandbox)

外部から受け取った信頼性の低いプログラムを、システムから隔離された安全な仮想環境内で動作させるセキュリティ機構。プログラムがどのような挙動をするか、安全に観察・分析するために利用される。たとえそのプログラムがマルウェアであっても、サンドボックス(砂場)の中で行われた操作はシステム全体に影響を及ぼさない。ブラウザやウイルス対策ソフトにも、この技術が応用されている。

20. Ruby

まつもとゆきひろ氏によって開発されたオブジェクト指向プログラミング言語。その設計思想の根底には「ストレスなく、楽しんでプログラミングする」という思想(Developer Happiness)がある。文法が直感的で可読性が高く、柔軟な記述が可能。名称は、プログラミング言語Perlが6月の誕生石「真珠」にちなんでいることから、7月の誕生石「ルビー」にちなんで名付けられたという経緯がある。